迷えるエース!藤浪晋太郎くん、"心"と"身体"のズレ

f:id:shepherd_moon_6:20210902170256j:plain「迷えるエース!藤浪晋太郎くん、"心"と"身体"のズレ」


藤浪晋太郎、言わずと知れた我らが阪神タイガースのエース。
恵まれた197cmの身長と、最速162kmを越える速球が武器の投手として、高卒1年目の10代から10勝(二桁勝利)を挙げる活躍を見せた。


……が、ここ数年は不調に苦しみ、1軍と2軍、先発とリリーフの行き来を繰り返す日々が続いている。

一時はイップス(投球障害)の話題まで持ち上がるが、昨シーズンは矢野監督による中継ぎ起用により7ホールドを挙げ、今期序盤にも勝利を収め、復活したかに見えた。
しかし、夏に入るとまたもや制球が乱れ始め、乱調に苦しみファームへ降格、再びリリーフとして1軍へ昇格したが、未だ完全復活とは言い難い先発としてもリリーフとしても、どちらつかずという状況が続いている。



彼を単なる才能の枯渇、実力不足、練習不足と断罪することは簡単だろう。しかし、彼もプロである以上は、プロとして最低限以上の練習は積んでいるように思われる。
何故なら、最低限の仕事、つまりここでは練習ということになるが、それすらも出来ない選手は、実力社会であるプロ野球の世界にはいられないからだ。



では、何が足りないのか?何が彼を苦しめるのか?

元巨人で、その後メジャーへ渡り、100勝100ホールド100セーブを挙げた上原浩治氏は、このように述べている。
『藤浪投手は自分の頭で気にしていることと、心や身体が気にしていることに「ズレ」があって、それを自覚していないことが不調になる原因』と。

要約するとこのような内容だ。

つまり、例を上げるとこういうことになる。
仮に藤浪投手が「フォーム」を気にしており、その対策として「フォームのズレ」を「修正」する練習に取り組む。
しかし、実際にはそのフォームのズレというのは、下半身の不安定さ・力不足から来ており、実際にするべき練習は、走り込みや下半身を鍛えるメニューを充実させること……というわけである。



話は変わるが、筆者は発達障害者自助会を始め、半年が経つ。
有り難いことにフォロワー100人にも満たないにも関わらず、既に合同、オンライン等も含めると5回開催しており、延べ約60人程の当事者、支援者、御家族や周囲の方と顔を合わせることが出来た。

それはさておき。
この「ズレ」は、当事者や周囲の人間にも言えることではないだろうか。


よく会で上がる話題として、「障害者就労・雇用」というものがある。
オープンで働くのが良いのか、クローズで働くのがいいか、業務内容は、サービス業なのか製造業なのか、または情報・通信関連か、公官庁、地方公共団体、年収はいくらなのか……

しかし、ちょっと待ってほしい。
オープンなのか、クローズなのかをとっても、その職場や人事の担当者、上司によって対応は千差万別であるし、例えば「有名企業の関連会社、その障害者雇用部門」だからと言って、100%の合理的配慮が受けられるようになるとは限らないのだ(差別がどうとかいう問題ではなく)。
また、業種・職種によっても、例えばサービス業なのか、サービス業としたらそれは飲食店なのか、情報・通信関連企業なのかによっても、一概には言えない。

つまり「結局オープンとクローズ、どちらがメリットがあるのか?」「どの業界や企業が配慮が受けられるか」と言われても、答えようがないのである。


では、雇用される側、これから就職する立場の人間は何も出来ないのか?
そう、ここで出てくるのが先程の藤浪投手に対し上原氏の言った、「ズレ」を埋める作業なのでいる。

具体的には、「自分がどの業界、どういった業務内容に興味があるのか」「自分の得意分野はどのようなものか、自分の得意な作業や技術はどのようなものか」といったことが例として挙げられる。
これらを分析し、ある程度自身で把握することが出来れば、
「○○は苦手なので、△△という業務を担当させてほしい」と採用時に伝えることや、
「指示の出し方はこうしてほしい」などと上司に伝えることも可能なのである。


実際には仮に「オープン就労で、接客業」だったとしても、担当の上司や人事の人間が障害に対する知識や配慮が無いと、いくら法律で決まっているからと言っても出来ることには限界があり(繰り言になるが、それは差別ではないのか?といった議論は今回は省略する)、
逆に「一般企業の一般枠」でも、「口頭で指示をされるのは苦手で、理解出来ないこともあるから、紙にまとめて指示を出してほしい」と一言伝えるだけで、劇的に働きやすくなる場合もある。


こうしてみると、当事者が主に気にしているのは「オープンなのかクローズか、どちらがメリットがあるか」「業務内容は、年収は」。
しかし、実際にすべきことは簡単に言えば「己を知る」こと、であることがわかる。正に、これこそが"ズレ"なのだ。



この記事の最後に、とあるテレビ番組での、元中日ドラゴンズ監督でリーグ優勝4回、日本一1回、選手として史上唯一の三冠王3回のレジェンド・落合博満氏の言葉を紹介したい。
「藤浪、このままだと終わっちゃうかもよ。徹底的に落ちるところまで落とさないと、本当に大切なことには気付けないよ。」

一見、現在ではパワハラやいじめかとも受け取れる発言だが、もしこのまま藤浪が"ズレ"に気が付くことが出来ず、1軍とファームを行ったり来たり、来年も、そのまま次の年も、3勝、4勝、数回のホールドを……そういう中途半端(まあそれでもプロとしてはすごいのだが)に成果が出たならば、どうだろう。そのことに安心し、彼は中途半端な選手で30半ばほどで引退。そうして終わってしまうのではないか?と懸念する。


ここからは筆者の憶測であるが、藤浪投手は高校時代からの"貯金"と、恵まれた体格によって、プロ4、5年目までは先発として活躍することが出来た。
が、彼の"真の適正"は中継ぎやリリーフであり、その部分を自覚していないことが意識の「ズレ」を生み、身体やピッチングまで悪影響を及ぼしてしまったのではないか。



藤浪投手にとっても、我々にとっても、周囲の人間、そして何より当事者にとっても、時として成果が出ない方が近道となり得る場合もあるし、その方が本当に大切なものに気付くことが出来、結果として幸せになれる場合もあり得る。


この記事を書いた今日は、藤浪晋太郎投手先発の日。
藤浪くんも我々も、当事者も、今一度自らの心の声や身体の声に耳を傾け、己を知り、「ズレ」を修正しつつ、真に大切なものに気付くことが出来ればと切に願う。